毎週水曜日の5限に履修している高橋俊介教授の「ヒューマンキャピタル論」。1,2年生が多いので教室はざわついているのだが、高学年としては本当に素晴らしい授業だと思う。毎回必ず驚きや発見があるし、90分間集中して話を聞いていられる。高橋先生は人事制度やキャリア論では超有名人なのだが、あの人を見て初めて「ただ喋っているだけでも人をひきつけることはできるのだ」ということを学んだ。偉大である。今回は「今の若者に試練が与えられなくなっている」ということと、「OJTで教えられることが減っている」という2点が印象に残った。
1つ目について。「試練」というと古臭く感じられるが、「自分の能力を少し超えたタスクを与えられ、そこでもがくことで能力がストレッチされる機会」だと思えば当たっているだろう。現在の企業では、そのような試練がなくなっているという。なぜなら、昔は人も少なく、上司も若くて経験もなく、新しいことを若い人がやらなければならない状況だったが、今ではそのような人が上層部にひしめき、企業も大きくなり、世界はグローバル化しているので、失敗できない状況になっている。そのため、経験のない若手に大きなことをまかせられないというのだ。これは父に聞いていたことと重なる。総合商社で若手に与える仕事なんてのは、上司が「できそうだ」と思う仕事を選別しているというのだ(トゥミトゥモショージの話。まあ三井三菱なんてもっとだろうけど…)。たしかに経験がものを言う石油・鉄鋼・化学品なんかで、1,2年目の若手に交渉の全権を任せられるわけないよな…
2つ目について。日本は昔からOJTで人を育てるということに長けていたらしい。それは職人の世界での徒弟制度(背中を見て育て!とか、教わるのではなく盗め!みたいな)だったり、モーレツ時代の会社における上司とのコミュニケーション(電話で話している部下の様子がおかしかったら声をかけてやったり、その後飲みに連れて行ったりなど)など、軍隊でいうと下士官レベルまでは非常に効率的に育つ仕組みがあったらしい(でも幹部レベルの育成法は全くなかったらしいのだけど、それは別の話)。ところが現在のように技術が高度・複雑になるとどうなるか。上司が教えられることがなくなるというのである。今回はジャンボジェットのジェットエンジンを例にとって話していた。昔はジェットエンジンがよく故障したので技術者は修理の経験をつむことができたし、「なぜ壊れたんだ?」と考えて実践し、知識が集積された。しかしエンジンの向上でそもそも故障の回数が減った上、高度な技術が搭載されているので現場の整備士ができるのはメーカーのマニュアルどおりに点検・保守し、手順どおりに交換するだけになっているという。これでは匠の技師は育たない、というのが高橋先生の指摘。
経済が踊り場を越えて下り坂に差し掛かっている今、上り坂の頃のパラダイムを引きずっているのは育成面でも大きな問題を抱えることになる。若手に経験をつませる機会もなく、実践で教えられる内容もなくなってきた今、育てる側としてすべきことは何なのか。難しい問題だが、考えなくてはならない。
きっと準硬式野球部も同じ問題を迎えることになるだろう。強いチームになることは達成した。経済の上り坂を登りきったわけだ。この後連覇をし続けるチームにするためには、優勝メンバーと呼ばれる人意外にいかに「試練」を与えられるか、いかにOff-JTを施せるかにかかっている。オフ期間に入ったからといって、決して横一線の評価になることはないのだから、それを認めた上でどのような方針を採るかが鍵となるだろう。
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